次世代に向けた価値創造の実践
私たちは、2030年ビジョンに「Innovative quality company―新たな価値を創造し続ける―」を掲げ、変化する事業環境の中でもこれまで蓄積してきたシート・内装品に関する多岐にわたる技術を礎に、お客さまに新たな価値を提供していくことを目指しています。その取り組みの一環として、2024年11月には東京国際フォーラムにて、次世代自動車を見据えた新たな車室内空間を提案する「次世代車室内空間発表会2024」を開催しました。
「次世代車室内空間発表会2024」概要
「次世代車室内空間発表会」とは、当グループが提案する車室内空間の新しい価値を、革新技術の数々を交えてステークホルダーの皆さまにご提案し、当社の企業価値向上を目指す発表会です。2022年の初開催から2年ぶり2回目となる今回は、お客さまからいただいた「展示品が実際の車室内で稼働する様子が見たい」という声を踏まえ、当社の考えるこれまでにない車室内空間を実際の車両内に具現化した3つのカットモデルを用意し、時代の多様なニーズに応える次世代商品等と合わせて全11点を公開しました。発表会に先立って行われた自動車メーカーさまへの展示会の場では、本田技研工業株式会社をはじめとする11社にご参加いただきました。当社の最新技術を体験いただいたお客さまからは「シート領域のビジネスの広がりを感じることができた」「シートのみならず車室内空間全体での新しい提案が新鮮だった」といったご好評の声を多数いただくなど、今後のさらなるビジネス拡大につながる重要な場となりました。
| 展示品 | 提供する価値 |
|---|---|
| ファミリーコンフォートキャビン | 多彩なシートアレンジにより、家族のつながりを深める新しい移動体験を創出 |
| Zジェネレーションキャビン | “共感”と”個”の時間を両立する車室内空間設計で、多様なライフスタイルに対応 |
| チャイルドファンキャビン | 子育てニーズに応えるシートアレンジで、育児世代の安心・快適な移動を実現 |
| ヘルスケアシート | 姿勢改善やフェムテック機能により、健康的で快適な乗車体験を提供 |
| 心拍提示振動シート | 乗員の心拍に応じた振動刺激で、安全運転支援とエンタメ体験の質を向上 |
| 疲労度推定AIシート | 疲労度可視化により、eスポーツプレイヤーのパフォーマンス向上に貢献 |
| サステナブルシート・ドアトリム | 部品点数・材料数の削減や植物由来素材の活用で、CO₂削減とリサイクル性向上に貢献 |
| サステナブル二輪シート | 植物由来ウレタンやポストインダストリアル材※1の使用で環境負荷低減と快適性を両立 |
| 次世代アーキテクチャECU※2 | 拡張性ある制御技術で、SDV※3時代の車両機能進化に柔軟に対応 |
| 高効率ベンチレーションシート | エネルギー損失を抑えた流路設計で快適性を維持しつつ、省エネ・省コストを実現 |
| タフ&ファンクショナルバギーシート | バギー走行時の過酷な環境でも快適な着座を実現し、機能性と耐久性を両立 |
- ポストインダストリアル材=市場に出る前の製品製造工程で発生した材料
- ECU=Electronic Control Unitの略称。システムを電子回路で制御する装置のこと
- SDV=Software Defined Vehicleの略称。ソフトウェアによって機能や性能が定義・制御される自動車のこと
“人”のために、技術は進化する -当社の考える新たな車室内空間-
家族の移動時間を“うれしい”に変える空間設計
私たちは、家族全員が快適に過ごせるミニバン空間の創造を目指し、限られた車室内に革新的なシートアレンジ機構を搭載しました。前後に動くロングスライドシートレールに横スライド機構も取り入れたことで、シーンに応じた空間活用が可能です。特に、前席が自動で回転する「対面モード」は、センターピラー構造のベース車両としたサイズのミニバンで実現するという難しい挑戦でしたが、当社の技術力とチームの創意工夫により、これまでにない家族のコミュニケーション空間を具現化しています。開発のきっかけは、子育て世代の声でした。渋滞中の退屈さ、サービスエリアの混雑、移動による疲労といった、日常の不満や困り事を、技術の力で解決したいという想いからスタートしました。「子どもファースト」だけでなく、大人も心地よく過ごせる空間を目指し、家族全員がリラックスできる“居場所”としての車室内を設計しています。
空間が生み出す新しい体験価値
多様なシートアレンジの一つである「ジグザグモード」では、シート配置を互い違いにすることで、親子間の視線が通り、安心感とコミュニケーションが生まれます。シート自体の機能としては、シートに内蔵されたスピーカーや振動デバイスが映像・音楽と連動し、没入感のあるエンタメ体験を提供します。また、スマートフォンと連動するゲーム機能を備えており、シートをコントローラーとして、体を動かしながら楽しめる仕掛けも搭載しています。さらに、大人向けには当社開発の「ヘルスケアシート」にあるセンシング機能とエアセルデバイスにより、長時間移動の疲労回復や姿勢改善をサポートし、移動後の快適な活動を支援します。加えて、骨盤周りを温めてほぐすことで女性特有の生理痛等の痛みを和らげるフェムテック機能も搭載しています。
技術的挑戦と社内連携による価値創出
「対面モード」の実現には、一般的なセンターピラー構造の車両でのパッケージングにこだわり、製造コストや量産性を考慮した設計を追求しました。ロングスライドシートレールを活用した協調制御によるシート移動、そしてそれらを統合制御する自社開発のECU(電子制御ユニット)により、限られた空間でも柔軟なアレンジを可能にしています。展示会直前のトラブルにも直面しましたが、メンバー全員が主体的に取り組み、想い描いた空間を形にすることができました。
移動体験の進化を目指して
今回の開発品は、単なる展示ではなく、未来のミニバンの可能性を示す一歩です。今後は各技術をさらに磨き上げ、実車への採用を目指すとともに、より自由で豊かな車室内体験を提案していきます。車室内空間の可能性は、技術の進化とともに広がり続けていますので、私たちはこの「ファミリーコンフォートキャビン」を通過点とし、ユーザーの声に耳を傾けながら、子どもも大人も“移動そのもの”を楽しめる未来を創っていきます。
若者の“自分らしさ”を反映する空間設計
私たちは、Z世代の価値観に寄り添い、移動空間を「自分らしく過ごせる場所」へと進化させることを目指し、新たな車室内空間「Zジェネレーションキャビン」を開発しました。このキャビンは、乗り込む前からワクワクできるデザインと、感情に寄り添う機能を備え、これまでの車室内とは一線を画す空間となっています。Z世代とは、1990年代後半から2010年頃に生まれた世代であり、学生時代をコロナ禍で過ごした方々もいます。リアルな友人関係や対面でのコミュニケーションが制限される中で育った彼らは、“表の自分”と“内面の自分”という二面性を大切にしており、その価値観に寄り添うことが、空間づくりの鍵になると私たちは考えました。
空間が生み出す新しい体験価値
Zジェネレーションキャビンには、2つのモードを搭載しています。1つ目は、みんなで楽しむことにフォーカスしたフレンドシップモードです。前後席の隔たりをできるだけなくし、自然に顔を合わせて会話できるシート形状を採用しました。中央のテーブル型ディスプレイでは、AIキャラクターが行き先を提案したり、音楽を選んだりと、乗員同士の一体感を高めます。後席の表情がバックミラーに映る工夫も施したことで、移動中のコミュニケーション活性化を支援します。
2つ目は一人の時間を大切にするウームモードです。ドアに格納された抱えられるクッションを取り出して、胎児のような姿勢でリラックスできるシートアレンジを実現しました。クッションは温まりながら呼吸するように膨らみます。エアセルを内蔵したシートも、後ろからそっと抱きしめるように形状が変化し、頭上からキャノピーが覆いかぶさるように出てくるので、自分だけの安心空間へと変わります。エアセルが作動すると心地よい香りが届けられ、キャノピー内のモニターではAIキャラクターが優しく励ましてくれます。温かさと香りに包まれながら、安心感を提供する設計です。
若手社員による価値創出への挑戦と展望
入社3年目で開発リーダーを任され、「自分たちのアイデアが本当に実現できるのか?」という不安を抱えながらも、同世代の社員たちとトライや改善を重ねてきました。発表会では、自動車メーカー各社から「アイデアを具現化できた点」が高く評価され、提供したい価値を具現化することで、お客さまにより伝えられる価値があるのだと実感しました、当社の若手の挑戦を支える企業風土が結果につながったと感じています。今後は、製品化に向けて技術のブラッシュアップを進めるとともに、若い世代の声に耳を傾けながら、移動体験そのものを進化させていきます。私たちは、車室内空間の可能性を広げ、誰もが“自分らしくいられる”未来のモビリティを創造していきます。
暮らしと環境に寄り添うイノベーション
疲労度推定AIシート
2023年に業務提携契約を結んだ株式会社 KICONIAWORKSと共同で、シートでセンシングした着座圧とスマートウォッチから取得した心拍データから疲労度を推定するアルゴリズムを開発しました。eスポーツでの活用に向けた実証実験を行った際には、推定された疲労度を可視化することで、プレイヤーのパフォーマンス向上を確認しており、将来的には、この技術を自動車にも適用することで安全運転に貢献していきます。
心拍提示振動シート
シートに内蔵されているセンサーや手首のスマートウォッチから乗員の心拍をセンシングし、得られた心拍データに対応した振動刺激を乗員に与えることで、平常な精神状態へ導き、運転をサポートします。また、車内で楽しむ映像コンテンツ内での緊迫したシーン等では、心拍数より早い振動刺激が、より緊張感を感じるように誘導するなど、エンターテインメントを想定した使い方も可能なシートです。
サステナブルシート・ドアトリム
リサイクルが難しい多くの材料で製造されていたシートカバーの部品点数や材料数を削減することで、解体時にリサイクルしやすいシンプルな材料構成としています。さらに、シート構造を工夫することで、植物由来の素材を用いても座り心地の快適性を保っています。ドアトリムは、加飾部品を単一素材化することで、分別せずにリサイクルが可能です。また、石油由来の素材から植物由来の素材を使用したことで、製品CO₂排出量削減にも貢献しています。
サステナブル二輪シート
クッションの素材として従来使われていた石油由来ウレタンに加えて、植物由来ウレタンの使用率を上げることで、製品CO₂排出量の削減に貢献しています。さらに、植物由来クッションでも従来の快適な座り心地を実現しています。また、シートフレームとなる樹脂フレームの素材に、新品原料だけでなく、当社や他企業での製造工程内で発生した樹脂端材を活用することで、サステナビリティに貢献しています。