社長メッセージ
技術革新を促進させるべく
人的資本投資やパートナーとの
連携強化を進め企業競争力を
これまで以上に高めていく
代表取締役 社長 保田 真成
テイ・エス テックグループは、2030年ビジョンとして「Innovative quality company-新たな価値を創造し続ける-」を掲げています。このビジョンの実現に向け、新たに始まった第15次中期経営計画(2024年3月期~2026年3月期、以下「第15次中期」)は、「ESG経営の実現」を経営方針とし、「成長戦略」「地域戦略」「機能戦略」からなる重点戦略をもって、事業拡大と資本効率の改善に取り組み、一層の企業価値向上に努めています。
第15次中期の初年度となった2024年3月期は、中国市場での日系自動車メーカーの販売不振による生産台数の減少をはじめ、原材料価格や労務費の上昇など、自動車業界全体が大変厳しい事業環境を強いられ、収益面での課題を残しています。しかしながら、各重点戦略の方向性は間違っていないと考えており、着実な施策実行のため、成長に不可欠な領域へ経営資源を惜しまず投入しています。
第15次中期経営計画の進捗
まず成長戦略の「キャビンコーディネート機能の獲得」について、長期視点ではEV化や自動運転車両の実現が着実に近づく中、キャビン全体をコーディネートし、お客さまやユーザーに新たな価値を提案できる企業への変革を加速させるべく、次世代車を見据えた商品開発に取り組んでいます。お客さまに対する積極的な技術提案が奏功し、次世代技術の一部については、当初想定より前倒しで採用いただくことが決まりました。
こうしたお客さまの期待を超える商品提案を着実に進めていくことで、成長戦略「新事業のさらなる拡大」と「主要客先シェア向上」の達成につなげていきます。
進捗としては、EV需要の急速な鈍化に伴う自動車メーカーの開発スケジュールの後ろ倒しなどの影響を受け、新たなお客さまからの受注計画に遅れが出ているものの、受注商権数は着実に増加しています。具体的には、インドでのマルチスズキ向け新規商権の受注が好調に推移していることを受け、生産体制構築のために新工場建設を進めており、インド市場における一層の事業拡大を目指します。その他地域においても、全世界のお客さまをターゲットとし、各機種のモデルチェンジタイミングを見据えた戦略的な営業活動を展開していきます。
また、本田技研工業グループ(以下、ホンダ)向けの受注についても、ターゲット商権の獲得は順調に進捗しています。引き続きシェア向上に向けて、お客さまとの魅力商品の共創、地域・機能本部連携や地域特性を活かした受注活動に取り組んでいきます。
次に、地域戦略の「北米収益体質のV字回復」については、生産変動による生産ロスの発生、原材料価格や労務費の上昇など、さまざまな要因から、収益性に課題がありました。そのため、生産工程の自動化や生産変動に柔軟な対応ができる立体自動倉庫システムなどへの設備投資、生産体制の最適化、調達構造の再編といった施策に取り組んでいます。一時期の状況から比べると、改善は進んでいるものの道半ばであるため、生産台数に見合った収益をしっかりと出せるよう、引き続き体質改善に努めます。
「中国事業戦略の再構築」については、新興EVメーカーの勢力拡大により、厳しい事業環境が継続すると見込んでいます。そのような中でも、収益を出せる生産体制にすべく、生産工程の自動化や現地ローカルサプライヤーの採用拡大、要員の雇用形態最適化などに取り組んでいます。加えて、現地自動車メーカーからの新規商権獲得に向け、開発体制の刷新を推進しており、すでに新たなお客さまからシートおよびドアトリム商権を受注できています。これを皮切りに受注商権をさらに拡大させることで、競争が激化する中国市場での勝ち残りを目指します。
その他の重点戦略を含め、着実な新商権獲得や収益改善を積み重ねていくことで、一層の事業成長を目指していきます。
第15次中期経営計画 重点戦略
経営
方針ESG経営の実現
成長戦略
重点戦略①
キャビンコーディネート
機能の獲得
重点戦略②
新事業のさらなる拡大
重点戦略③
主要客先シェア向上
地域戦略
重点戦略④
北米収益体質のV字回復
重点戦略⑤
中国事業戦略の再構築
重点戦略⑥
欧州新事業の戦略的拡大
機能戦略
重点戦略⑦
サプライチェーンの再構築
重点戦略⑧
環境技術開発の推進強化
重点戦略⑨
高効率生産体制の構築
さらなる企業価値向上に向けて
第15次中期のスタートにあたっては、2030年ビジョン達成に向け、皆さまへありたき姿の一部を定量的にお伝えすべく、業績目標および新たな株主還元方針を策定しました。しかしながら、策定時点から事業環境は激変し、目標達成は容易ではない状況であるため、追加改善施策などの検討を行い、業績目標達成の確度を精査しています。精査が完了次第、必要に応じて、皆さまへお知らせいたします。
一方で、株主の皆さまへの利益還元は当初計画通り“ブレる”ことなく推進していく考えです。収益性を高めていくことはもちろん、事業規模に合わせた適切なキャッシュ水準へと移行すべく、成長投資に加え、積極的な株主還元をもって資本構成の最適化を着実に進めていきます。
株主還元方針に基づき、第15次中期末DOE※3.5%以上に向けた安定増配や機動的な自己株式の取得により、3年間で500億円規模の株主還元を計画しており、配当については、方針に沿って第15次中期中は安定的な増配を続けていく見込みです。自己株式の取得に関しては、2024年5月公表の自己株式取得に関するお知らせの通り、2025年3月31日までに公開買付けと市場買付けを併用し、150億円規模の株式取得を進めています。残りの自己株式の取得や、さらなる株主還元施策についても検討し、機動的に実施していくことで、持続的な企業価値向上に努めます。
- DOE(株主資本配当率)=配当総額÷株主資本(親会社の所有者に帰属する持分)


TSフィロソフィー経営
市場環境の先行きが見通せず、企業運営が難しい時だからこそ、当グループの軸であり、私たちの存在価値を体現する「TSフィロソフィー」 の実践が何よりも大切だと考えています。この根幹となる企業理念「人材重視」「喜ばれる企業」は、サステナビリティの考え方に深く通じており、以前から、ESG経営を企業運営の方針に掲げ、さまざまな取り組みを行ってきました。そして、持続可能な社会の実現に向け、優先的に取り組んでいく重要課題(マテリアリティ)を特定し、各項目について関連するKPIを定め、2030年時点でのあるべき姿を指標化した2030年目標を策定しています。
中でも、CO₂を直接排出する自動車の製造に関わる企業として、また異常気象をはじめとする気候リスクが事業に及ぼす影響の大きさから、気候変動対応を重要な経営課題の一つとして位置づけています。2050年には事業活動における当グループのCO₂排出を実質“0”とすることを目標に掲げ、カーボンニュートラルの実現に貢献していきたいと考えています。また、当グループは四輪事業(シート・内装品)について、気候変動リスクと機会のシナリオ分析を実施しており、「物理的リスク」と「移行リスク」に分類し、財務的影響を3段階で評価するとともに、重要なリスクと機会の影響額を想定し、定量評価を行い、その結果を開示しています。これらの結果を踏まえ、経営戦略・リスクマネジメントに反映しながら対策を進めていくことで、持続可能な成長を目指していきます。
長期的視点での企業成長には、サステナビリティへの取り組みが必要不可欠であるものの、当グループが属する自動車業界では、存続すら危ぶまれるほどの事業環境変化が起こっています。この変化の大波を乗り越えていくためには、新たな価値を生み出し続けられる企業への変革が必須です。変革とは“挑戦”を続けることであり、その原動力となるのが“人”の力であると信じています。今、この環境において、私たちが最も大切にしなければならないのは、社員という“人財”です。社員こそが、企業の競争力の源であり、持続的な価値創造の中心です。
昨今、人的資本経営が叫ばれる中、私たちは企業理念に「人材重視」を以前から掲げています。人への投資を経営の基盤に据え、社員一人ひとりが活き活きと働き 、自らの可能性を最大限に発揮できるよう、働く環境の整備やスキルアップのための機会を提供し、成長を後押しすることに努めてきました。その取り組みの指標の一つとして、社員に対するエンゲージメント調査を行っています。本指標はマテリアリティKPIに設定し、2030年「AAA(最高評価)」を目指します。調査結果から、多様化の進む現代社会において生じる、社員と会社の考え方や想いのギャップをいかにして埋めていくかを検討し、エンゲージメント強化に向けた施策を全社的に展開しています。一方で、単に個人の希望を叶えるだけでは、見かけ上のエンゲージメント向上は期待できても、企業成長にはつながらないと考えます。当グループの価値観と言えるTSフィロソフィーの想いと、社員個人ごとの価値観が重なっていくことが重要です。しかし、それは簡単なことではなく、無理にフィロソフィーを押し付けたとしても、社員一人ひとりが行動で体現できるとは限りません。
私は、社内の全グループの皆さんに向けてメッセージを発信する際は、「会社のために働こうと考えずに、自分のため、家族のために努力をしてください」と必ず伝えています。決して利己的な働き方を奨めているわけではありません。人は自分のためになら、より継続的に努力できるものです。企業と社員の目指す方向が一致した上で、多様な働き方が可能な環境が整っていれば、自分のために努力して働くことが、企業成長につながり、ひいては拠点のある地域や社会全体のためになると私は信じています。そのため、社員一人ひとりが活躍できる環境を整えていくことが、私の使命であり、他の経営陣にも各担当領域で取り組んでもらっています。
「喜ばれる企業」であり続けるために
「喜ばれる企業」とは、お客さまや取引先に喜んでもらうだけではなく、社員自身が喜びとやりがいを感じ、成長を実感できる企業であるべきだと強く感じています。多様なバックグラウンドを持つ社員一人ひとりの価値観を尊重し、全員が活躍できる環境を提供することで、企業としての持続的な成長を実現させます。
今後も市場環境は厳しさを増すことが見込まれており、従来の方法や過去の成功体験に頼るだけでは、企業成長は難しい時代です。そのため、これまでのやり方にとらわれず、迅速かつ大胆に変革を進めていくとともに、技術革新を促進させるべく、引き続き人的資本への投資やパートナーとの連携強化など、企業競争力をこれまで以上に高めていくことに注力していきます。
全てのステークホルダーの皆さまにとって「喜ばれる企業」であり続けるために、企業としての責任を全うし、企業価値向上に努めてまいりますので、今後ともご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。