財務戦略

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残された課題と第15次中期経営計画

自動車業界は現在、100年に一度の大変革期を迎えており、当グループを取り巻く競合環境は一層厳しさを増しています。そのような中、第14次中期経営計画(2021年3月期~2023年3月期、以下「第14次中期」)は、経営方針「ESG経営による企業進化」の下、重点施策に掲げた「戦略的商権の拡大」を目的とした生産体制の整備、新規顧客・新商権獲得に向けた組織体制の見直しや、「事業体制の最適化」に向けた生産・開発・物流といったさまざまな観点からの再編など、さらなる事業成長に向けた仕込みを着実に行ってきました。しかしながら、新型コロナウイルス感染症影響やサプライチェーンの混乱など厳しい事業環境が続き、収益性や資本効率に課題を残す結果となり、ROEは現状低い水準での推移となりました。当グループが持続的に成長を続けるためには、これまで築いてきた強固な財務基盤をベースに、資本や資産をこれまで以上に効率的に活用し、事業拡大や収益性向上へ結び付けていく必要があると考えています。

第15次中期経営計画(2024年3月期~2026年3月期、以下「第15次中期」)では、第13次中期経営計画から推進してきたESG経営の集大成とすべく「ESG経営の実現」を経営方針に掲げ、企業価値の持続的な向上を目指します。達成に向けては、課題となっている資本効率の向上が不可欠であり、売上・利益といった従来から用いてきたKPIに加え、ROEを最上位の重要指標と定め、「成長戦略」、「地域戦略」および「機能戦略」からなる9つの重点戦略に基づく積極的な成長投資により、キャッシュを収益性の高い資産へアロケーションしていきます。また、業績に左右されない継続的かつ安定的な配当や機動的な自己株式の取得による株主の皆さまへの還元を実施・継続することで、第15次中期末(2026年3月期末)の目標であるROE8.5%以上の実現を目指します。

第15次中期 業績目標

2030年を見据えた資本構成

当グループはリーマンショックや東日本大震災、昨今の新型コロナウイルス感染拡大など、厳しい事業環境下においても着実にキャッシュを創出できる収益体質を構築してきました。その結果、2023年3月末時点においてグループ全体で1,329億円のキャッシュを保有し、連結自己資本比率78%と極めて高い安全性を確保しています。しかし、2030年ビジョンを達成し、当グループがステークホルダーの皆さまから喜ばれる企業であり続けるためには、これまで以上に資本を効率的に活用し、成長速度を加速させていく必要があります。

資本効率向上に向け、さまざまなリスクと機会の観点からキャッシュフローを勘案し、事業運営に必要な安全資金を確保しつつ、それを上回るキャッシュを成長投資や株主還元に割り当てることで、資本効率向上と財務安全性を両立していきます。第15次中期では、この余剰キャッシュをより収益性の高い資産へアロケーションすべく、9つの重点戦略に基づき800~1,000億円規模の投資を実施していきます。新事業領域での拡販やキャビンコーディネート機能強化を見据えたM&A、生産自動化に関する設備投資や技術開発、開発・生産拠点の刷新など、積極的な投資をもってさらなる事業成長・収益性向上を図り、創出したキャッシュを次の投資・還元へとつなげていくことで、持続的な成長と還元拡充の好循環を目指していきます。

投資による利益の押し上げに加え、一層の株主還元を行っていくことでさらなる株主資本のスリム化を図り、資本効率を高めていきます。当グループは従前から、株主の皆さまに対する利益還元を経営の重要課題と位置付けており、第14次中期は、連結業績および配当性向などを総合的に勘案し安定的に配当を継続するという基本方針の下、株主の皆さまの日頃のご支援にお応えすべく安定的な配当を実施しました。また、初めて自己株式の取得を行うなど、厳しい事業環境の中でも株主還元の充実に努めてきました。

2030年を見据えた資本構成の変化イメージ

第15次中期の開始に当たっては、株主還元方針を刷新し「業績に左右されない継続的かつ安定的な還元の実施」を基本方針に掲げ、中長期的な資本構成やキャッシュフローの状況を考慮し、具体的な定量目標を策定しています。配当については、これまでよりも増配角度を一段上げることで、第15次中期末(2026年3月期末)DOE3.5%以上を目指した安定的な増配を、自己株式の取得については、成長投資、配当水準、手元資金および株価水準等を総合的に勘案した上で、第15次中期累計200億円規模の機動的な自己株式取得を予定しており、第15次中期における株主還元は総額500億円程度を計画しています。

現在、当グループは連結売上収益4,000億円程度を推移していますが、2030年3月期には連結売上収益7,000億円を達成することを目指しています。最適な資本構成を考える際には、現在の企業規模を想定した短期的な視点ではなく、このありたき姿における資本構成を想定し策定した財務戦略の下、積極的な投資による一段の事業成長と、それに合わせた適切なキャッシュ水準への移行、株主資本のスリム化を図り、資本効率を高めることで持続的な企業価値向上に努めます。

  • DOE(株主資本配当率)=配当総額÷株主資本(親会社の所有者に帰属する持分)
株主還元方針
配当推移

当社は2021年4月1日付で普通株式1株につき2株の株式分割を行っています。
配当金については2015年3月期の期首に当該株式分割が行われていたものと仮定して算定しています。

持続的な企業価値向上を目指して

当グループのPBRは2023年3月末時点で0.72倍(株価1,679円)にとどまっており、皆さまの期待には十分に応えられていないのが現状であると認識しています。この背景には、コロナ禍前の高い収益性に回復しきれていないことや資本効率の低下があると捉えています。

これに対し、重点戦略に基づく成長投資や創出したキャッシュを活かした株主還元の拡充により「成長」と「還元」の好循環を生み出すことで課題解決を図るとともに、重点戦略を支える人材の育成や企業基盤の強化により「ESG経営の実現」を果たすことで持続的な企業価値の向上を図っていきます。

こうした取り組みによりPBR1倍以上の早期達成を目指していくことはもちろんのこと、資本市場のみならず全てのステークホルダーの皆さまに存在を期待され「喜ばれる企業」であり続けられるようこれからも邁進していきます。

2023年3月期 セグメント別実績

事業別売上構成比 セグメント別売上構成比

日本

当期は、ホンダ新型CIVIC TYPE Rや新型STEP WGN用シートの生産を開始しました。

浜松地区において拡販に向けた新工場が稼働を開始しました。また、金型の製造・技術開発を行う施設の新設を決定するなど、事業成長と部品競争力強化を図っています。

ホンダ CIVIC TYPE R用シート
ホンダ CIVIC TYPE R用シート

米州

当期は、ホンダ新型ACCORDや新型CR-V用シートなどの生産を開始しました。

新機種の立ち上がりに合わせ、より進化した高効率生産を実現する自動化設備を導入するなど、厳しい事業環境下においても収益を確保できる体質改革に努めています。

ホンダ ACCORD用シート
ホンダ ACCORD用シート

中国

当期は、ホンダ新型CR-Vや新型BREEZE用シートなどの生産を開始しました。

競合が激化する中国市場において、新規顧客獲得に向けた営業活動の強化や原価低減に資する部品調達の拡大を図り、収益性向上に努めています。

ホンダ C-RV用シート
ホンダ C-RV用シート

アジア・欧州

当期は、アジアでホンダ新型WR-Vや新型CR-V用シートなどの生産を開始しました。

インドでの二輪車用シート事業の再編や、欧州地域の生産拠点再編などを行うことでコスト競争力のある製品供給体制の構築に取り組みました。

ホンダ WR-V用シート
ホンダ WR-V用シート