対談:ソニー×テイ・エス テック

ソニー株式会社 AIロボティクスグループ 事業戦略部 SCプロジェクト プロジェクトマネジャー 髙梨 伸様とソニー株式会社 AIロボティクスグループ 事業戦略部 担当部長 江里口 真朗様とテイ・エス テック株式会社 取締役 開発・技術本部長 小堀 隆弘の写真

未来の車室空間に求めるものは?

2020年4月、日本においてレベル3※1の自動運転車の公道走行が認められ、自動運転社会の到来が現実味を帯びてきました。自動運転によって移動のスタイルが変わり、車に求められる価値も変わっていく中で、移動時間を楽しい時間に変えることができれば、それは高い付加価値となり得るでしょう。
エンターテインメントと自動運転の組み合わせで「必要な移動」を「楽しい移動」に変える提案を行ってきたソニー株式会社の江里口様、髙梨様と当社開発・技術本部長の小堀が、自動運転時代の車室空間に対しての考え方や取り組みについて対談しました。

  • 自動運転レベル3:米国のSAE International(Society of Automotive Engineers)が策定した自動運転技術の水準をレベル0~5の6段階で区分したもの。レベル3は条件付自動運転で「特定の場所においてシステムが全てを操作し、緊急時には操縦者が対応する」とされる

乗れば運動できるシート? 先端技術による新たな可能性

「愛されるシート」※2を体験されてみていかがでしたか?

髙梨:

非常に面白かったです。シートをコントローラーにして、右に重心をずらしたら右に曲がって、真ん中に動かしたら直進する、前進後退と右左の移動が座ったままできるのは画期的ですね。座り方で動かせるという新しいUI※3ができると、車室空間の考え方が変わると思いました。「SC-1」※4に載せてみると面白そうですね。

あと、「INNOVAGE」※2にはハンドルが付いていましたが、ハンドルを取って愛されるシートでINNOVAGEを操縦できるようにしたら、さらに面白くなるんじゃないでしょうか。

小堀:

INNOVAGEと愛されるシートの融合は確かに面白そうですね。ちなみにINNOVAGEに載せているシートにもテイ・エス テックの技術が詰まっているんです。

INNOVAGEのシートは、ドライバーのパートナーのような存在となる「相棒シート」が基になっています。「相棒シート」は、座った人の体格や姿勢をセンシングして、快適な運転ポジションに自動調整したり、理想姿勢へと促す機能や、座っている人の眠気を判断して、必要に応じて振動で眠気を低減させる機能を搭載していました。この他にも、さまざまな機能を厳選してINNOVAGEに搭載しています。

実は搭載は見送ったんですが「相棒シート」がさらに進化した、「エクサライドシート」というのもあって、運転中の比較的安全な環境のときに、座面クッションの臀(でん)部と接する箇所が動くことで、運転時間を運動時間に置き換えることが可能です。一般的な生活において1日の理想運動量に足りないとされるカロリー消費を、運転時間で補えるシートです。

江里口:

運転で運動不足解消ですか? これが実際に車載できれば運動のために車に乗って出かける人が増えそうですね。

小堀:

INNOVAGEの企画コンセプトの中に「健康」というキーワードもあって、呼吸や心拍をセンシングして体調管理するのはもちろんですが、座っているだけで運動不足を解消して健康になったら良いですよね。CASEへの対応はもちろんですが、移動時間を目的地までの単なる時間ではなく、シート技術を活用して新しい意味を持つ時間へ変えられる「座る」価値を提供したいと考えています。

愛されるシートの体験風景

これまでの自動車用シートの概念が大きく変わりそうですね。

小堀:

自動車には命を守るという最重要課題があり、テイ・エス テックは各国の法規と各自動車メーカー独自の耐久性や快適性の基準に応える製品を提供し続けてきました。今の自動車は、車体とシートでそれぞれ安全性を担保しています。今後、完全自動運転が実現し、そもそも衝突しない車になるとすれば、従来の前提は大きく変わってくると思います。シート専門メーカーでなくても、インテリアメーカーが座り心地も見た目も良いシートを作れるようになるかもしれません。

江里口:

自動運転で言うと、SC-1はセンサーを四方に搭載しているので走行中コースから外れることはありませんが、時速3kmでも急停止することもあります。たとえ自動運転車だとしても、急停止したとき、安心して座っていられるシートとエンターテインメントの両立は必要だと感じますし、とても価値があると思いますね。

小堀:

そうですね、社会全体が衝突しない車に置き換わるにはまだ時間がかかるでしょうから、安全性と適度な自由度のある空間をいかに活かすかかが、私たちの非常に大きな課題になると思います。

移動時間の意味が変わる

移動に対する期待や価値観が変わる中、どのようなコンセプトが求められるでしょうか?

江里口:

例えば飛行機での長時間移動はつらいものです。苦痛に感じる渋滞中も、快適なシートと楽しいエンターテインメントがあれば、楽しい時間、楽しい場所に変えられると思います。

小堀:

INNOVAGEのコンセプトには「トキづくり」というキーワードがあり、今まで移動するだけだった空間から、その時間をいかに新しい価値に変えていくかを考えています。

江里口:

SC-1と似てますね。この車両は、走行する速さをあえて低速にしています。これは、徒歩と同じくらいゆっくりでも乗車中のコンテンツが楽しくて快適なら、遠い場所にもあっという間に到着した感覚になるはずだ、という考え方を基にしています。時を忘れるような移動をSC-1では提供していきたいのです。

それぞれのプロダクトについて、今後の展開や将来的な目標を教えてください

小堀:

自動車は生産性の観点から同じものを大量生産する工業製品のため、パーソナライズは行われてきませんでした。こういうシート機能が欲しいという要望に対して最適なものを提供し、車室空間の新しい価値という観点でも自動車を買ってもらえるようになることが夢の一つです。

江里口:

大学の研究者など異業種の方と連携する中で、われわれだけでは思いつかないような斬新なアイデアも生まれました。無人自動運転の実績を積んで評価も頂いたので、さらに魅力的なコンテンツを生み出したいです。いつか、目的地に行くまでの乗車料は無料、つまり移動はタダだけど、車室空間で利用するコンテンツで収益をあげるという、従来とは全く違う概念を実現したいです。

髙梨:

愛されるシートでSC-1自体も動かせるようになれば、健常者でも障がいのある方でも動かすことができる車を造ることができるという可能性を感じました。SC-1と愛されるシートを使って、どのような世の中に役に立つことができるか、もっと考えてみたいですね。

小堀:

そうですね。移動の時間で笑顔を提供するという発想が私たちに共通する点だと感じました。学校や病院、介護施設など、自動車にとらわれず、それぞれのコミュニティの課題を解決できるようなアプリケーションを開発し、新しい価値、喜びや楽しさを社会に提供していきたいですね。

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ソニーが開発した「SC-1」

移動をエンターテインメント体験の場に変える

ソニーの映像技術とヤマハ発動機の自動運転技術を融合させた低速のエンターテインメント用車両。コンセプトは「スマホが走る」で、携帯電話にカメラ機能やお財布機能など新しい機能が増えていくように、移動する機能を載せたらどうなるかという発想で開発。
SC-1は、電磁誘導方式の自動運転で走行可能。フロントガラス部分は窓ではなくモニターで、車載カメラを使って車外を撮影した映像を映し出し、実際の風景にCGを重畳させることができる。ホテル敷地内やゴルフ場で夜間の観光アクティビティとしてナイトクルーズなど、有償サービスの実証実験を実施している。

ソニーが開発した「SC-1」

テイ・エス テックが開発した「INNOVAGE」「愛されるシート」

「座る」の新しい価値を提案

INNOVAGE

CASEを見据え、センシング、やすらぎ、シートアレンジなどテイ・エス テックの先端技術を結集。座った人の体格に応じてシートポジションや硬さを自動調整し、体圧を分散させることで各自に合った快適な座り心地を提供。空調や照明の自動コントロール機能を搭載し、乗降やドライブ、コミュニケーションなど9パターンから利用シーンに合わせたシートアレンジを選べる。

INNOVAGE

愛されるシート

自動車用のシート技術とIoTを融合したシートシステム。シートに内蔵したセンサーが、座った人の動きを感知し、シートを使った新しい楽しみ方を提案。シートはさまざまなアプリケーションと連動し、大人から子ども、障がいのある方や高齢の方など、誰もが座って楽しめるスポーツやレクリエーションなど幅広い活用が可能。

愛されるシート