社長メッセージ
事業環境が
激変する中においても
常に挑戦を続け
さらなる企業価値向上を目指す
代表取締役 社長 保田 真成
当グループは、2030年ビジョン「Innovative quality company-新たな価値を創造し続ける-」の実現に向け、第15次中期経営計画(2024年3月期~2026年3月期、以下「第15次中期」)を推進しています。2年目となる2025年3月期は、中国市場での日系自動車メーカーの販売不振に加え、原材料価格や労務費の上昇といった製造コストの高止まりなど、各地域で依然として厳しい事業環境が続きました。また、世界的なEVシフトの減速に伴い、自動車メーカーの開発・生産計画の見直しが進むなど、先行きの不透明感が一層強まる状況となりました。こうした困難な環境下においても、私たちは企業価値のさらなる向上を目指し、揺るぎない「TSフィロソフィー」の下、「成長戦略」「地域戦略」「機能戦略」の3つの重点戦略を柱に、成長に不可欠な分野へ積極的に経営資源を投入し、各種施策の推進に取り組んでいます。
第15次中期経営計画の進捗
まず、成長戦略の一つ「キャビンコーディネート機能の獲得」に向けては、当グループは次世代車の進化を見据えた商品開発を加速させています。自動運転技術等の進展により、自動車のキャビン(車室内空間)は単なる移動手段の場から、ユーザーに新たな価値を提供する空間へと変化しつつあり、当グループはこうした長期的な視点に立ち、キャビン全体をコーディネートし、ユーザーにとって魅力的で快適な空間を創出できる企業への変革を目指しています。
昨年11月には、2回目となる独自技術展示イベント「次世代車室内空間発表会2024」を開催し、多くの自動車メーカーの皆さまにご来場いただき、当グループの先進技術を実際に体感いただきました。お客さまからは高い評価をいただくとともに、改善点に関する貴重なご意見も頂戴し、それらのフィードバックを基に、今後さらに磨きをかけるべき技術領域を選定しました。また、メーカーごとに関心が高い技術が異なることから、より効率的な研究開発を推進し、期待を超える商品提案を着実に進めることで、「新事業のさらなる拡大」および「主要客先シェア向上」へとつなげていきます。
「新事業のさらなる拡大」に関しては、EV需要の鈍化により、自動車メーカーの開発・生産計画が後ろ倒しとなり、新規顧客からの受注計画にも遅れが生じています。その一方で、欧州拠点においては、フォルクスワーゲンID. Buzz向け3列目シートフレームの生産を開始するなど、受注規模は着実に拡大しています。さらに、今後の商権獲得を見据え、自動車需要の拡大が期待されるインド市場において、マルチ・スズキ向け四輪車用シート等のメインサプライヤーであるKrishnaグループと、シート開発および部品製造の合弁会社を設立しました。両社の蓄積された技術やノウハウ等のリソースを融合させることで、インド国内の自動車メーカーをはじめとする新規顧客・新商権の獲得に向け、積極的な受注活動を展開していきます。
「主要客先シェア向上」に向けては、新規顧客・新商権の獲得を進める一方で、当グループにとって最も重要な事業基盤であるホンダビジネスのさらなる受注拡大に取り組んでいます。シェア向上には、既存商権の確実な受注と新商権による拡販が不可欠です。自動車業界が急速に変化する今こそ好機と捉え、開発初期段階からお客さまと連携して、地域特性を考慮した魅力ある商品づくりに向けて、競争力のある提案を継続していきます。
地域戦略の「北米収益体質のV字回復」については、変則生産による労務費や生産ロスの増加、原材料価格の高止まりなど、複数の要因により収益が厳しい状況が続く中、生産ロス改善に貢献する自動化設備の水平展開等有効施策への積極的な設備投資を進めています。さらに、生産領域にとどまらず、間接部門も含めた構造改革に取り組むことで、収益体質の改善を図っています。これらの取り組みにより収益改善は着実に進展しており、今後も生産ロスのさらなる削減を通じて、収益性の向上を目指していきます。
「中国事業戦略の再構築」では、地場EVメーカーの躍進により、日系自動車メーカーの苦戦が続き、依然として厳しい事業環境を強いられています。そのような中で、こうした市場変化をいち早く察知し、要員の雇用形態の最適化、生産拠点の再編、現地ローカルサプライヤーの採用拡大等、先手を打った対応を進めてきました。その結果、厳しい環境下でも一定の収益を確保できる体制の構築が進んでいます。さらに、新たなお客さまからの新規商権獲得も順調に進んでおり、長安汽車グループや広州汽車グループから新たな商権を受注しています。2026年3月期から生産が開始される機種の早期開発と確実な生産立ち上げによって、さらなる商権獲得につなげ、競争が激化する中国市場での勝ち残りを目指していきます。
第15次中期の進捗状況については、全体としては概ね70%の達成度となっています。順調に進展している重点戦略がある一方で、計画策定時から外部環境は大きく変化しており、一部の戦略にはその影響が及んでいますが、各戦略の方向性は現時点でも適切であると認識しています。関連する施策を着実に実行し、成果を積み重ねていくことで、さらなる事業成長に向けた第16次中期経営計画(2027年3月期~2029年3月期、以下「第16次中期」)の基盤を盤石なものにしていきます。
第15次中期経営計画 重点戦略
経営
方針ESG経営の実現
成長戦略
重点戦略①
キャビンコーディネート
機能の獲得
重点戦略②
新事業のさらなる拡大
重点戦略③
主要客先シェア向上
地域戦略
重点戦略④
北米収益体質のV字回復
重点戦略⑤
中国事業戦略の再構築
重点戦略⑥
欧州新事業の戦略的拡大
機能戦略
重点戦略⑦
サプライチェーンの再構築
重点戦略⑧
環境技術開発の推進強化
重点戦略⑨
高効率生産体制の構築
成長の軌跡

さらなる企業価値向上に向けて
当グループは、1960年の設立以来、自動車産業の発展とともに、着実に企業成長を遂げてまいりました。これまで、世界的な金融危機や自然災害等により一時的に売上が落ち込む局面もありましたが、その都度、困難を乗り越え、現在の強固な事業基盤を築いてきました。
しかしながら、昨今は自動車業界全体が厳しい環境に直面しており、当グループも成長の踊り場に差し掛かっていると認識しています。第15次中期の計画策定以降、収益目標の前提となる生産台数計画等に大きな変化が生じており、2030年ビジョンの達成に向けては、持続的な事業成長を実現するための新たな施策が不可欠です。
現在、当グループでは、保有資本を活用した得意領域でのM&Aを含む成長投資等、事業規模のさらなる拡大に向けたさまざまな可能性を検討しています。第16次中期に向けては、これらの取り組みを踏まえ、皆さまに今後の成長をご期待いただけるよう、計画の策定を進めています。
新たに取り組む施策の成果が表れるまでには一定の時間を要します。一方で、株主の皆さまへの利益還元は、株主還元方針に基づき、当初計画通りしっかりと推進していきます。第15次中期の最終年度には、DOE※3.5%以上に向けて安定的な増配を行っていくとともに、機動的な自己株式の取得・消却を通じて、3年間で500億円規模の株主還元を予定しています。現時点では、これらの還元指標の水準を達成できる見込みであり、今後もDOEの維持・向上を含め、適宜適切な株主還元施策の実施を通じて、持続的な企業価値の向上に努めてまいります。
- DOE(株主資本配当率)=配当総額÷株主資本(親会社の所有者に帰属する持分)
サステナビリティ取り組みによる企業価値向上
今後も市場環境の厳しさが続くことが予想される中、さらなる事業成長を実現するためには、サステナブルな事業構造が必要不可欠であると考えています。ただし、それは会社の方針を大きく変えるものではなく、自らの存在価値を体現する「TSフィロソフィー」の実践を深めていくことにほかなりません。企業理念である「人材重視」「喜ばれる企業」は、サステナビリティの考え方と本質的に通じており、当グループは創業以来、社会とともに成長する姿勢を一貫してきました。
具体的には、持続可能な社会の実現に向けて、企業理念に基づいた重要課題(マテリアリティ)を特定し、KPIを設定した2030年目標を策定しています。特に、CO₂排出に直接関わる自動車業界の一員として、気候変動への対応は喫緊の課題であり、TCFD※1の提言に賛同し情報開示の充実を図っています。さらに、2025年3月期からはTNFD※2への取り組みにも範囲を広げ、生物多様性や自然資本への配慮を強化していきます。これらの国際的な枠組みを活用しながら、経営戦略やリスクマネジメントに的確に反映し、サステナビリティへの取り組みを加速させます。
また、「喜ばれる企業」とは、お客さまや取引先さま、株主さまや地域社会の皆さまに喜んでもらうだけではなく、これからの自動車業界を勝ち抜いていくための価値創造の源泉である社員自身が、働きながら喜びとやりがいを感じ、成長を実感できる企業だと強く感じています。そのためには、社員一人ひとりが挑戦を続けられる環境づくりが重要です。取り組みの例として、社員がより主体的にキャリアを築けるよう、管理職を含む全社員を対象に、希望する異動先をヒアリングし、社内でマッチングが成立した場合に異動を実現する「希望ジョブローテーション制度」や、各部門のキャリア採用募集に社員が応募できる「社内公募制度」を導入しました。働きやすさという点では、介護等個々の理由を考慮した上で在宅勤務制度の月間利用上限を撤廃するなど柔軟な働き方を支える制度改善にも取り組んでいます。さらに、管理職向けに従業員株式交付信託制度を新たに導入するとともに、創立65周年を記念して、一般社員を含め自己株式65株を譲渡制限付株式として配布しました。これは、社員のモチベーション向上を図るとともに、株主の皆さまと同じ目線で企業価値向上に貢献する意識を醸成することを目的としています。こうした取り組みをはじめ、社員の多様な価値観や働き方に応えるため、多角的な環境づくりに取り組んでいます。
- 気候関連財務情報開示タスクフォース。気候変動がもたらすリスクと機会を特定・評価し、それらを開示するための国際的な枠組み
- 自然関連財務情報開示タスクフォース。自然資本や生物多様性に関連するリスクと機会を特定・評価し、それらを開示するための国際的な枠組み
最後に
当グループは、さらなる事業成長と持続可能な社会への貢献を両立させるべく、今後も組織の力を結集し、変化に柔軟に対応できる強靭な企業体質の構築に取り組んでいきます。不確実性が増す事業環境においても、私たちは、将来に向けた確かな一歩を着実に踏み出しています。これからも、社会とともに歩み、持続可能な価値創造を通じて、全てのステークホルダーの皆さまにとって「喜ばれる企業」であり続けられるように、企業価値を一段と高めるべく不断の努力と挑戦を重ねてまいりますので、今後ともご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。