2024年05月27日
新機種紹介
「座る」だけじゃない新たな価値を
共同開発で実現したリアシート
SUZUKI SPACIA

2023年11月に発売されたスズキ株式会社(以下「スズキ」)の
新型「スペーシア」「スペーシアカスタム」に、当社製リアシートが搭載されました。
エンドユーザーの多様なニーズに応えるために、快適性と利便性を徹底的に追及して生まれたこのシートを開発した
プロジェクトメンバーの皆さんにお話しを伺いました。
Profile
-
松島 正明
機種LPL(ラージプロジェクトリーダー)
1986年入社。浜松地区の設計部署に配属後、設計担当として各拠点で二輪・四輪それぞれのシート設計に従事。2010年代半ばからは、機種LPLとしてさまざまな機種を担当し、各プロジェクトを主導する。
-
會田 真也
第二設計部
設計PL(プロジェクトリーダー)
2009年入社。途中数年間、シート解析業務などに従事しつつも、入社時から現在に至るまでキャリアの大部分でスズキのシート設計に携わる。今回のプロジェクトでは設計PLを担当。
-
櫻井 壮史
事業開発部
営業PL(プロジェクトリーダー)
2003年入社。2006年から一貫してスズキの営業窓口を務める。本プロジェクトでは、より良い商品づくりを目指して、従来とは異なるアプローチでスズキとの開発活動をサポート。
-
高橋 俊彦
開発試験部
商品性検証担当
2011年入社。入社から5年間、商品開発部で市場調査などを行う。2016年からは開発試験部に異動し、本プロジェクトでは、シートの座り心地や使い勝手などの商品性検証を担当。
櫻井特に力を入れたのが、お客さまの機種開発責任者であるチーフエンジニア(CE)へのアプローチです。これまで、購買部門や内装設計部門の担当者とお話しする機会はあっても、CEは雲の上の存在でした。従来から当社の提案は、担当者の方々へお伝えしていましたが、提案の真意やそこに込められた熱意まで含めてCEへ伝わっていたかはわかりませんでした。そこで私たちは、浜松工場の威信をかけて先行開発を進めてきたこのシートについては、開発にかける想いを100%の内容でお伝えしたいと考えました。そして、お客さまとの間のあらゆる人脈を頼っていった結果、初めてCEとお話しする機会をいただくことができました。
その絶好の機会に行ったのが、独自の市場調査と先行開発に基づく数々の技術提案です。その内容にCEが関心を持ってくださったことを足掛かりに、次は栃木県にある当社の技術センター(図1)へお招きし、私たちの技術力を余すことなくお見せしました。その結果、「部品メーカーがここまで高度な開発をしているとは驚いた」とお褒めいただき、次々と提案の機会をいただくことができました。そこから、さらにお客さまのニーズを詳しくお聞きし、しっかりと応えてきたことで、最終的に商権を獲得することができました。
高橋快適性を語る上では欠かせない「座り心地」の良さには特にこだわりました。開発の過程では、よりスムーズなコンパクト格納を実現するために、座面の厚みを抑える改良も必要となりました。それと同時に、座面にはマルチユースフラップが内蔵されるため、ウレタンパッドの厚みを先代モデルほど確保することができず、座り心地が悪化してしまうことが課題となりました。そこで素材メーカーと共に検証を重ね、原料配分などの改良を行うことで、柔らかさがありながらも底突きを感じにくい、バランスの良いウレタンパッドを開発し、快適な座り心地を実現しました。
さらにこれだけ多機能なシートですから、限られた座面内部のスペースで、機構部品の組み合わせを成立させるのにも苦労しました。このコンパクトな座面に、シートスライドやシート格納に関する機構に加え、フラップの角度変更や伸縮に関する機構まで、全てを盛り込まなければならなかったので、設計PLと一緒にパズルを組み立てるように検証を重ねて、最適な内部構造を作り込みました。
會田マルチユースフラップにも快適性へのこだわりが込められています。実は開発初期段階において、フラップは今よりも大きな形状だったのですが、それではフラップがシート格納時に床面に接触してしまうため、途中で小型化を図っています。ところが、ただフラップを小型化するだけですと体格によってはふくらはぎに点で当たり、フィーリングが悪化してしまう課題が生じました。そこで、フラップ自体を伸縮させる機構を新たに開発し、ふくらはぎの接触面積を確保することでフィーリングの改善を実現しました。(図5)このように、新型スペーシアのリアシートは利便性や機能性だけでなく、当社のモノづくりの根幹である快適性についても一切妥協することなく追求して造り上げてきました。