2024年03月18日
新機種紹介
FITに乗る全ての人を心地よく
快適性を高めたシート
Honda FIT
広い車室空間と豊富なシートアレンジなどの使い勝手の良さ、
そして優れた燃費性能によってコンパクトカーに革新をもたらしたHonda「FIT」。
2020年2月、フルモデルチェンジによりシートも新たに生まれ変わりました。
街乗りにも長距離移動にもあらゆるシーンで使われるコンパクトカーだからこそ、
使い勝手のみならず、快適さを追求した新型FITシート。
その開発秘話を、プロジェクトメンバーの皆さんに伺いました。
Profile
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志津野 義行
機種LPL室
LPL(ラージ プロジェクト リーダー)
1981年入社。鈴鹿工場に配属後、20年間に渡って新機種の立ち上げに携わり、量産プロセスのスペシャリストとして活躍。その知識と経験を持って、開発部門に異動し、2005年からはLPLとしてさまざまな機種の開発を取りまとめている。前モデルFITのLPLも担当。
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日向野 祐輔
設計部
設計PL(プロジェクトリーダー)
2009年入社。設計部門に配属後、前モデルFITのフルモデルチェンジの際にも開発に携わり、新型FITでは設計PLを担当。
新型FITシートのこだわりを教えてください。
志津野新型FITシートでこだわったのは、やはり快適性です。「上級セダンのような」と目指した快適性を実現するために、次世代シートフレームを採用しました。当社の中で上級機種への搭載を見据え、安全でより軽く、かつ快適なシートを目指して開発されたもので、このフレームをコンパクトカーに採用するところからも、FITへの意気込みを感じてもらえるかもしれません。
また、快適な座り心地に欠かせないのが、皆さんが感じる座ったときのフィーリングです。座った瞬間の感触や、姿勢が安定したときのホールド感など、一般的には数値化できないと言われているフィーリングを、私たちはシートメーカー独自のノウハウで数値化し、さまざまな体格の方にも合う最適な形状を追求しています。
新型FITシートでは身体をしっかりと支え、包み込むような柔らかなフィーリングを実現するために、従来のスプリングバネ構造ではなく、お客さまと共同開発をした樹脂プレートを使ったサスペンションマットで面支持構造をとりました。(図1参照)「線」で支えるスプリングバネ構造と異なり、サスペンションマットをシートバックと座面に配置することで、背骨からお尻、骨盤まで、座る人をしっかりと「面」で支えるのが特長です。フィーリングが良いだけでなく、人間工学に基づいた運転しやすい姿勢を保持でき、長距離の運転でも疲れにくくなっています。
志津野快適な座り心地のもう一つの肝が座面のクッションです。フロントシートもリアシートも、前モデルよりもクッションを厚くしました。こう言うと簡単そうに聞こえると思いますが、例えば従来のリアシートでは、座った時のお尻の下あたりに、シートアレンジ用の機構部品があり、クッションを厚くしたくてもこの部品とぶつかってしまうため、断念せざるを得ませんでした。そこでフレーム設計を一から見直し、利便性はそのままに機構部品を移動させたことで、クッションを厚くすることができました。(図2参照)クッションは座り心地に大きな影響を与えるので、厚みを持たせられるようになったのは大きかったですね。きっと、座った瞬間にこれまでのシートとの違いを感じてもらえると思います。
コスト競争力を兼ね備えた、機能と美しさを追求した上質なシート
シートのバリエーションが豊かで、それぞれが上質感あふれる仕上がりになっていますね。
志津野新型FITはライフスタイルに合わせて5つのタイプを選べるようになっていますが、5タイプそれぞれシートを開発すると、コストがかさんでしまいます。そこで今回は、ファブリックと本革の大きく2つの仕様で設計し、部品の共通化を追求しながらタイプを派生させ、多様なバリエーションの効率的な生産を可能にしました。こうすることで開発コストが抑えられるのはもちろんですが、タイプが多い中でも効率的な生産ができるため、量産コストも抑えられます。お求めやすい価格で市場に出されるコンパクトカーだからこそ、機能だけでなくコストにも気を配りました。
また、外見の上質さにもこだわっていて、美しいデザインを実現するための見えない工夫もたくさん施しています。例えば、本革は素材の特性上個体差があり、薄い部分や厚い部分があるので、ただシートの形に縫っただけでは、縫い目がゆがんだり、シワができることがあります。そのため、革の裏側に特殊な加工を施し、クッション側でも硬さや厚みを調整するなど、長年私たちがシートをつくり続けて得た技術やノウハウをたくさん詰め込んでいます。
今回のプロジェクトで苦労した点は?
日向野通常、シートを量産する際は、お客さまと当社で全部品の仕様を決定してから量産のための金型を製造(量産金型製造)しますが、新型FITでは従来と異なる進め方を取りました。通常なら全仕様を確定する時期であっても、シートの品質にこだわりたいというお客さまからの強い要望があったからです。お客さまの妥協しない姿勢と、より良い製品を皆さまにお届けしたいという私たちの想いは同じ方向を向いていました。しかし、最後の仕様が決まるまで金型製造を待っていると量産開始に間に合いません。そこで、推進工程を分割して、仕様が確定している部品は量産の準備を始め、仕様整合中の部品はギリギリまで設計検討を行うという、当社でも初めての方法で進めました。
志津野管理も複雑になるので、難しい進行ではありましたが、プロジェクトメンバーの枠を超えて、多くの部門の方がバックアップしてくれました。
また、これまでにない仕様の多彩さや次世代シートフレームの初投入など、量産を担当する鈴鹿工場としてもたくさんのチャレンジがありました。幸い、私が鈴鹿にいた時の先輩や仲間がたくさんいたので、困難な状況でもチームワークの良さを存分に発揮できたのではないかと思います。
開発ツールや設備がデジタル化してハイテクになっても、重要なチームワークとかは結局アナログなんですよね。(笑)
服部鈴鹿工場はHondaのNシリーズなどのシートも手掛けており、新型FITも併せると当工場の歴史の中でも全盛期に近い生産台数となります。また、今回から初採用された次世代シートフレームのために新材料や多数の新規自動設備を導入しているため、通常であればトラブルが起きやすい状況と言えました。そのような中でも、世界各地に拠点を構える他の生産工場の見本となる様なスムーズな量産開始に向け、工場一丸となって新型FITの立ち上げに取り組みました。
山中新型FITから、お客さまの品質面での要求基準が格段に上がっています。今回のFITへかける想いが強いのだと思います。フレームの溶接ラインも刷新され、品質管理や作業ミス防止の新たな設備を導入し、高品質かつ万全のトレーサビリティーシステムを整えています。改善を重ねた新たな生産体制で、エンドユーザーの皆さんに喜んでいただけるシートづくりに取り組んでいます。
島瀬新型FITのシートは、豊富なタイプの生産を踏まえ効率的な設計がされていますが、どうしても、表皮素材やカラーの違い、輸出地向けの各国法規による仕様差を含めると100パターン近い組み合わせが存在します。通常のコンパクトカーでは考えられない数です。生産現場では仕様が増えれば増えるほど、組み立てが難しくなっていきます。そのため、早い段階からスタッフの習熟やライン改善に取り組み、一脚一脚を高品質で綺麗に仕上げられるラインを目指しました。苦労もありましたが、多彩なシートの中から皆さん一人ひとりのお気に入りが見つかるとうれしいです。
プロジェクトを終えて
多くのスタッフの協力なしには、量産は成し遂げられなかった
志津野不可能なことはないと信じ、開発から量産開始まで進めてきましたが、お客さまのニーズに応えるための提案、快適さを追求したシート構造の共同開発、分割して量産準備を進めるなど、さまざまなチャレンジの連続でした。無事に量産開始までたどり着けたのは、プロジェクトメンバーのおかげだと感じています。
完成したシートを納品した際に、お客さまから「シートの座り心地がすごく良くなった」との声をいただき、褒めていただけたことは励みになりました。
日向野今回初めて設計PLを任され、知識不足を突きつけられる場面がたくさんありました。壁にぶつかるたびに、志津野さんを始め、仲間に支えてもらい何とか進むことができました。本当に感謝しています。たくさんのメンバーの協力によって形になった新型FITのシートは自信作です。ぜひ皆さんに座っていただいて、心地よさを感じていただけるとうれしいです。