社外取締役メッセージ
風通しの良い風土が取締役会の実効性向上につながる

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2023年度は、新型コロナウイルスが経済活動に与える影響がほぼ解消し、障害なくコミュニケーションが取れる環境が戻ってきました。取締役同士あるいは執行役員との意見交換や事業所視察など、社外取締役として当社をより身近に感じられる機会が多くなった一年だったと考えています。
近年、当社のコーポレート・ガバナンス体制は着実に整備が進んでおり、2024年6月の株主総会決議を経て、取締役人数は従前比2名減の全11名、そのうち約半数の5名を社外取締役が占める体制となりました。これにより、監督と執行の役割区分がさらに明確化するとともに、社外の目が多くなることで、より客観的かつ透明性のある意思決定が可能になると期待しています。
さて、社外取締役に対する期待値は年々高まりつつありますが、当社では各々の専門性に基づく高いレベルの提言がなされ、取締役会における議論の深化に寄与しています。一方、事業内容に関する議論については自助努力のみでは補完できない高いレベルの知識・理解が要求されることもありますが、2024年3月期より事業戦略会議に社外取締役も参加することで、当社の置かれた状況や課題についてより深く理解できる環境が整いました。同会議では中長期を見据えた戦略に関する各担当役員と経営陣との熱心な議論が行われ、当社の活力を肌で感じるとともに、各自の人格もよく理解でき、これからの人材戦略やサクセッションプランを検討する上での貴重な機会になっています。社外取締役が参加する会議体の拡大といった改革は「取締役会実効性評価」の意見に基づいたものですが、毎年実施される同評価は、取締役会の実効性を高める上で大きな意味合いがあります。特に社外取締役の忌憚のない意見は重要で、当社では評価結果に基づき担当取締役との意見交換会を実施しています。議論は数時間に及ぶこともあり、これにより「実効性評価の“実効性”」がさらに高まることを期待しています。
昨今、自動車業界では品質不正に関する問題が新聞紙上をにぎわせる大変残念な事態となっており、同じ業界に身を置く当社の取締役として組織管理の重要性と責任の重大さを痛感しています。当社においては、以前から取締役会が品質に関して深くコミットしておりますが、この問題を対岸の火事とせず、今後とも取締役会では品質問題をはじめ、安全性に関わる全ての項目を注視していく所存です。そのためには、風通しの良い風土を醸成し、都合の悪い事実でも確実に経営陣に上がってくる文化を築いていくことが何より肝要と思料しております。
当社の社外取締役を4年務めていますが、この間にガバナンス体制は大きく前進しました。議論の透明性・納得性、人材の多様性など、組織そのものが大きく進歩し、実効性は確実に高まっていると実感します。このモメンタムを継続し、当社の文化としてより強化・定着させ、取締役会の実効性向上がさらなる企業価値向上につながることを期待しています。
多様な人材の力とIT活用が環境変化に立ち向かう鍵となる

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2023年は中国市場での日系自動車メーカーの販売不振やエネルギー・原材料価格の高騰、グローバルでの人件費高騰など、当社にとって大変厳しい事業運営を強いられた一年でした。2024年も事業環境の厳しさは一層高まっており、我々経営陣にとっては引き続きチャレンジの年となっています。
私に期待される役割は、企業経営やグローバルビジネス、人材開発・ダイバーシティ領域の知見を活かし、経営の進化に貢献していくことであると認識しています。当社の取締役会は闊達な議論ができる場であり、これまでも株主の代弁者としての立場を意識しながら、自身の経験や知見に基づいて積極的に発言し、戦略議論の深化に努めてきました。ますます不確実性の高まる社会や激変する自動車業界の中で、当社が新たな価値を提供し続けるために、経験や専門分野の異なる他の取締役の方々とともに、今後も当社の未来を考えていきます。
日本では、2040年に労働人口が約1,100万人不足するという予測があり、今後の人材確保と育成、テクノロジーを活用した生産性向上への取り組みは、当社が持続的な成長を実現する上で重要な鍵になると認識しています。毎年実施している社員へのエンゲージメント調査では、分析結果に基づき、全社横断施策と各部門独自施策の両面からエンゲージメント向上に取り組んでいます。今後もPDCAサイクルを回しながら、着実に成果を出していくことを期待しています。ダイバーシティに関しても、当社は多様性を広義で捉え、多様な人材が働きやすく、能力と意欲がある人材が力を発揮できる環境を実現するために、種々の施策を講じています。これは、当社が掲げる2030年ビジョンを実現するための人的資本経営という観点において不可欠なことです。ただし、“2030年に女性役員比率30%以上”という政府目標を達成するためには、女性に焦点を当てた取り組みをさらに強化する必要があると考えており、引き続き取締役会をはじめとした各会議体で提言していく所存です。
また、当グループではDXの推進にも力を入れており、ITで仕事の仕組みや働き方を変革していくという考えの下、積極的なIT活用による業務改善、効率化、そして生産性向上を進めています。昨年はKICONIA WORKS社との業務提携を実現し、生産領域だけでなく管理領域においても、AI活用の検討を開始しています。また、目覚ましい勢いで進化を続ける生成AIを実務に取り入れるための検討や、社内のルール整備も進めています。AIの活用は、今後の業務変革や生産性向上に大きく寄与するポイントであり、大いに期待しています。
当社の社外取締役に就任して3年目となりましたが、これまで当社の経営に携わってきて感じることは、当社は「真面目で実直な風土を持った会社」であるということです。世の中の変化に、地道な施策を打ちながら着実に成長していけるよう、社外取締役という立場で、客観的な視点を持って積極的に提言していきます。
企業価値向上に向けて指名・報酬プロセスのガバナンス強化を図る

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2023年6月の取締役会において指名・報酬委員会委員長を拝命し、指名・報酬プロセスのガバナンス強化につながる委員会運営に努めてきました。当委員会では社外取締役である委員から、社長に求められる資質や社長選任の進め方等について提言がなされるなど、今後の取締役および執行役員(以下、役員)指名の方法などについてのディスカッションを重ねています。委員会として結論を出すには至っておりませんが、将来を担う次世代経営者の育成・選抜などに関する当社のサクセッションプラン策定に向けて、確かな一歩を踏み出したと考えています。
また、取締役会からの諮問に基づき役員の選任・解任、役員報酬などについて、取締役会へ答申しており、2024年4月より新たに1名の代表取締役が選任されています。選任にあたっては、監査等委員と当該代表取締役とで実施している面談の回数を従前より増やしました。今期は監査等委員でない社外取締役2名も面談に加わることで、より客観性のある議論を重ねています。さらに、2024年3月期より事業戦略会議に社外取締役が参加することで、会議に出席する執行役員や部長級人材など、次世代の役員候補者のスキルや人格を理解しやすくなりました。今後は、社内役員と接する機会をさらに増やすことで意思疎通をこれまで以上に図るとともに、当社の人事戦略・サクセッションプランについてより深い議論を進めていきます。具体的には、次世代を担う取締役候補者の適格性判断のために、執行役員との面談や、執行役員が過去に受講した研修記録などを委員会メンバーで共有することを検討しています。
2025年3月期は第15次中期経営計画の2年目にあたり、今期末頃からは第16次中期経営計画の策定に向けた議論が本格化します。新たな事業戦略・業績目標の設定とともに、役員報酬の構成や業績連動報酬の新たなKPI検討など、経営意識を一層高める報酬のあり方についても活発な議論を交わし、企業価値向上に貢献していきます。
取締役の選解任
代表取締役全員および国内で執務する取締役(監査等委員を除く)をもって構成する経営会議にて候補者を選出し、指名・報酬委員会に諮問します。
諮問を受けた指名・報酬委員会では、選任基準やスキル・マトリックス、取締役会の多様性などを勘案の上で、審議を行い、当該審議結果を監査等委員会に報告するとともに、取締役会に答申します。
取締役会では、指名・報酬委員会からの答申内容および監査等委員会からの意見を踏まえた上で、審議を行い、候補者を決定します。
取締役に、法令又は定款違反、その他職務を適切に遂行することが困難と認められる事由が生じた場合には、指名・報酬委員会および監査等委員会での審議を経た上で、取締役会において株主総会への当該取締役の解任議案の提出について審議・決定することとしています。
多様な意見を取り入れる姿勢が一層のガバナンス強化につながる

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当社では、社外取締役の意見を積極的に経営に反映しようとしており、特に2024年3月期は、その本気度を強く感じた1年でした。例えば、指名・報酬委員会において「今後の社長に求める資質」を議論するにあたり、まず社外取締役の意見が求められました。その後、社長・取締役候補者の適格性を見極めるため、社外取締役全員と業務執行を担う取締役との面談の場を設けています。また、毎年実施する取締役会実効性評価では、社外取締役から上がった意見を放置することなく、代表取締役と社外取締役全員との面談の場が設けられ、その意見と対応策に関する数時間に及ぶ議論が交わされました。この議論を基に具体的な対応策が策定され、そのうちの一部はすでに実行に移されています。
近年のガバナンス改革の成果も相まって、当社には社内外の多様な意見を取り入れようとする風土と体制がしっかりと根付いています。各会議体には発言しやすい雰囲気があり、私自身、以前よりも積極的に質問や意見をするようになりました。私が以前、社内で検討されていなかった事項について社外目線での提言をした際、社長が即座に「もっともである」と理解を示し、採用されたことがあります。一方、当社には当てはまらないと見送りになった際には、会議後に社長から心温まる一言をいただいたこともあります。このように当社には、社外取締役として忌憚のない意見を言いやすい環境が構築されていると感じています。
2025年3月期は経営体制が変わり、会社の雰囲気が以前にも増して明るくなりました。代表取締役のお二人は密な意思疎通ができる良いタッグであり、意思決定のスピードが一段と上がりました。また、相談しやすい雰囲気を作るなど、社員にとってより身近な存在になったと感じます。私は監査等委員である社外取締役として、何かあれば代表取締役にも遠慮なく意見できるよう、引き続き社内の状況を注視していくことで、当社の健全なガバナンスに貢献していきます。
近年のガバナンス改革の取り組み

環境変化に柔軟に対応した事業戦略・財務戦略が企業価値向上につながる

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当社の監査等委員に就任して1年が経過した中で、当社への理解を深める上で感心したことが2点あります。一つ目は、「社外取締役に幅広く情報を提供する」という経営陣のスタンスに基づき、提供される情報が充実していることです。社外取締役の出席しない経営会議・本部長会議などの資料や議事録、業務監査部による内部監査記録などは社内ネットワーク上で常時確認可能であり、当社の動きを理解する上で大変役立っています。
二つ目は、社外取締役が忌憚なく意見・質問できる環境が整っていることです。例えば、取締役会の議案については、監査等委員会において事前説明がなされますが、議案に関する質問はもちろん、他に懸念すべき事項なども遠慮なく意見・質問することができ、都度迅速に回答を得られています。これはさまざまな場面で深みのある議論をするための一助となっており、当社のこうしたオープンな風土は、社外取締役の持つ視点を積極的に経営に反映する上で有益だと感じます。
2025年3月期は第15次中期経営計画の中間年にあたりますが、本計画を策定した時点からは海外の自動車市場をはじめとする当グループを取り巻く外部環境が大きく変化しており、事業戦略を適宜見直しつつ推進する必要があります。こうした中、私が注視していることの一つは、財務戦略の進捗です。現在、当社の財務戦略の主眼は、積極的な成長投資と株主還元の強化を通じてROEを高め、さらにはPBRの向上につなげていくことにあります。このうち、株主還元の強化については、安定的な増配と自己株式取得が着実に実行されていると捉えています。一方、成長投資については、収益性の高い投資案件の検討が継続して行われているものの、現時点で具体化したものは比較的小規模な案件にとどまっています。投資判断にはリスクとリターンの見極めが要求されますが、M&Aを含め今後の事業成長に資する積極的な投資を行うことで、さらなる企業価値向上につながることを期待します。
第15次中期 財務戦略の概要
