2025年08月25日
モノづくり
次世代モビリティの誕生を目指す
技術者たちのゼロからの挑戦

2022年に共同開発契約を締結したテトラ・アビエーション株式会社(以下:テトラ社)との「空飛ぶクルマ」用シート開発。
そのシートを搭載した空飛ぶクルマ「Mk-7(マークセブン)」のモックアップが、国内外のさまざまなイベントにて展示されました。
自動車とはフィールドが異なる「空の旅」を、安全・快適に提供できる次世代モビリティの実現を目指して、
シート開発に尽力したプロジェクトメンバーにインタビューしました。
Profile
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赤井 恒太
第一設計部
PL(プロジェクトリーダー)
2012年入社。設計部門に配属後、四輪シート開発を担当。2018~2021年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)へ出向し、ロケットや宇宙機の構造解析や構築などに携わる。本プロジェクトでは全体を統括するPLを担う。
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池田 嶺斗
開発試験部
法規調査・強度担当
2015年入社。開発試験部に配属後、衝突安全領域での四輪シート開発や先行開発に携わる。本プロジェクトでは法規調査とシート強度の分析を担当し、安全性と乗り心地を両立するシート開発に貢献。
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今泉 知己
開発試験部
材料開発・選定担当
2020年入社。開発試験部に配属後、四輪シート用の材料開発に携わる。本プロジェクトにおいても、シートに使用する材料の開発および選定を担当し、安全性と外観を両立するシート開発に貢献。
池田私たちはまず「空飛ぶクルマのシートに必要な安全要件」の定義付けから取りかかりました。一つ目の要件は強度です。航空機関連の法規を読み漁り、各種カンファレンスへ参加、国交省への確認なども行いました。その結果、空飛ぶクルマの飛行特性に合致する法規を適用すればよいと結論付け、「離着陸と水平移動時の荷重を与えても壊れないこと」を要件としました。
この要求値自体は、衝突を想定している自動車よりも低いものでしたが、テトラ社から要求されていた目標重量との両立が大きな課題となりました。プロペラで飛行する空飛ぶクルマにおいては、軽量化は最重要課題であり、シートの目標重量は自動車の4分の1という非常に厳しい数字でした。当然、従来の開発アプローチでは全く実現できない数値であり、メンバー全員で対応を検討しました。
赤井当初は軽量化のため、メインフレームをなくし、ワイヤーフレーム入りのパッドを、機体にボルト締結することを考えていましたが、それだけでは目標重量に届きませんでした。そこでワイヤーすら必要としない薄肉パッドを製作し、さらにベースをEPP※製とした上で、背面にも設けたことで、強度や意匠性を損なうことなく重量を半減させることができました。
シートに一切の金属を使用しないというのは当社として初の試みだったのですが、自動車用シートの開発で培ったノウハウを駆使し、EPPの構造へ意思入れなどをすることで、強度要件や外観品質など、全ての課題をクリアすることができました。
※ EPP(発砲ポリプロピレン):発砲スチロールに似ているが、より強度が高く、緩衝特性などに優れている
赤井モビリティが変われば、シートに求められるものも変わります。「いつもの開発ならこうだろう」という固定観念にとらわれていては突破口は見えません。
今回、広い視野を持つことの重要さに気付くことができました。そして、プロジェクトを通じて得られた知見、新たな取引先とのつながり、その全てが自分たちの財産になりました。また、国をあげて取り組んでいる「新たなモビリティの誕生」という大きなテーマにチャレンジできたこと自体が貴重な経験でした。
空飛ぶクルマが本格的に実用化されるには、まだ時間がかかるかもしれません。ですがこの先、移動の選択肢が陸から空へと広がり、人々の生活がより豊かになる未来は、着実に近づいています。そのとき「当社がその礎を支えている」と言えるようになりたいですね。
これからも、モビリティ社会の明るい未来を実現するために、私たちは果敢に挑戦し続けます。
Q.
「Mk-7」開発コンセプト
時速250㎞の高速飛行という性能を最大限に活かし、新幹線や高速道路が届かない地域における移動の課題解決に挑んでいます。
「あらゆる地域に、もっと自由で快適な移動手段を提供したい」という想いを胸に、日々開発に取り組んでいます。
Q.
テイ・エス テックのシートについて
空を飛ぶモビリティにとって、「軽さ」は極めて重要な要素です。当社が設定した目標値を上回る軽量シートをご提供いただき、大きな助け舟となりました。
また、機能性はもちろん、座り心地についても申し分なく、国内外のさまざまなイベント会場でも多くの来場者の方々から好評をいただきました。
一日も早くお客さまに体験いただけるよう、私たちも一層気を引き締めて開発を進めていきます!