「座る」だけじゃない新たな価値を
共同開発で実現したリアシート

SUZUKI SPACIA

唯一の乗用車用シート商権を失注した10年前に浜松工場の設計部にいた私は、当時の悔しい思いを胸に「今回は何としてもお客さまから商権を獲得する」という強い気持ちを持って、本プロジェクトに臨みました。一度失った商権を取り戻すのは、並大抵の取り組みでは実現できません。そこで、今回はこれまで以上にお客さまに寄り添った提案活動を行ってきました。

櫻井特に力を入れたのが、お客さまの機種開発責任者であるチーフエンジニア（ＣＥ）へのアプローチです。これまで、購買部門や内装設計部門の担当者とお話しする機会はあっても、ＣＥは雲の上の存在でした。従来から当社の提案は、担当者の方々へお伝えしていましたが、提案の真意やそこに込められた熱意まで含めてCEへ伝わっていたかはわかりませんでした。そこで私たちは、浜松工場の威信をかけて先行開発を進めてきたこのシートについては、開発にかける想いを100%の内容でお伝えしたいと考えました。そして、お客さまとの間のあらゆる人脈を頼っていった結果、初めてＣＥとお話しする機会をいただくことができました。

その絶好の機会に行ったのが、独自の市場調査と先行開発に基づく数々の技術提案です。その内容にＣＥが関心を持ってくださったことを足掛かりに、次は栃木県にある当社の技術センター（図1）へお招きし、私たちの技術力を余すことなくお見せしました。その結果、「部品メーカーがここまで高度な開発をしているとは驚いた」とお褒めいただき、次々と提案の機会をいただくことができました。そこから、さらにお客さまのニーズを詳しくお聞きし、しっかりと応えてきたことで、最終的に商権を獲得することができました。

スズキの開発担当者の方と共に実現させた「マルチユースフラップ」も利便性向上に大きく貢献しています。フラップをオットマンとして快適性を向上させるための機能（図3）として使ったり、フラップを上向きにする「荷物ストッパー機能」が新たに追加されました。さらに、歴代モデルのリアシートで初採用となったアームレストも同時使用することで、前後左右方向の荷物固定が可能となっています。こうしてリアシートが「座席」としてだけでなく、荷物を「安心して置ける場所」にもなりました。（図４）

松島この他にも「万が一フラップに床の汚れが付いても、拭き取れる表皮にする」など、日常使用を想定してあらゆる仕様をお客さまと一緒に考える開発活動が今回の開発の大きな特徴です。こうして両社のアイデアを重ね合わせていくことで、よりエンドユーザーの皆さまに喜んでいただける、完成度の高いシートを開発することができました。

松島今回、お客さまと一体となって開発が進められたことで、より多くのエンドユーザーの心に響くシートを開発することができました。結果として、メディアやＳＮＳなどでこのシート自体が話題となったのは、とても名誉なことと感じています。量産開始とともに浜松工場は間違いなく活気付きましたし、お客さまからは次のビジネスのお声掛けをいただくこともできました。これからも、お客さまに寄り添い、より良いモノづくりを実現していくことで、世界中に「喜び」と「感動」をお届けしていきます。